天のゆりかご

祈りの言葉が谷間に響いている。風が吹き抜ける丘で大人たちがひざまずいていた。彼らはパミールの遊牧の民、タジク族。

５月半ば、季節がめぐり、家族が夏の放牧地に移動する時を迎えていた。祈りは旅の無事を先祖に願うものだった。
移動するのはダウティの家族８人、幼子もいる。牧場の移動は遊牧民の定め。

冬を過ごした家を後にし、草が豊かな場所を求めて各地を移動する。残るのは家族のなかで農業に携わる者たち。
山奥の崖を３００匹を超す山羊を連れての２週間弱の移動は過酷だ。「神様のご加護を」残る者たちは、涙を流して無事を祈った。
ダウティ一家は別れを告げると、谷の奥へと進んで行った。楽園「天のゆりかご」をめざして。
　　
一年にわたりダウティ家の生活を取材した。標高四千メートルを超える真夏でも降雪がある厳しい自然環境のなか、千年以上前と変わらない暮らしを続ける家族。電気やガスはもちろんない。彼らは自然を敬い自然と共にある。強い絆で結ばれた家族が生きる姿を描く。